救急車が近づいてくるときはサイレンが高く聞こえ、目の前を通り過ぎると急に低くなったように感じます。

救急車がサイレンそのものの音程を変えているのでしょうか。

シンプルな答え

救急車が動いているため、私たちのところへ届く音波の間隔が変わるからです。

近づいてくる救急車の前方では音波が詰まり、届く音の周波数が高くなります。反対に、遠ざかる救急車の後方では音波の間隔が広がり、周波数が低くなります。

この現象をドップラー効果といいます。

図で見ると

救急車が右へ走っていると考えてみます。

遠ざかる側

← |  |  |  🚑

音波の間隔が広い
↓
1秒間に届く波の数が少ない
↓
低い音に聞こえる

進む側

🚑 |||| →

音波の間隔が狭い
↓
1秒間に届く波の数が多い
↓
高い音に聞こえる

音源であるサイレンが一定の周期で音を出していても、その間に救急車自身が移動します。

そのため、前方と後方では音波の間隔が同じになりません。

詳しく見てみる

音の高さを決める重要な要素が周波数です。

周波数とは、簡単にいえば「1秒間に何回の波がやってくるか」です。

周波数が高ければ高い音に、低ければ低い音に聞こえます。

音の速さを (v)、周波数を (f)、波長を (λ) とすると、

v = f × λ

という関係があります。

救急車がこちらへ近づいてくると、救急車が一つの波を出してから次の波を出すまでの間にも前へ進みます。その結果、進行方向では波と波の間隔、つまり波長が短くなります。

音速が同じなら、波長が短くなるほど周波数は高くなります。

逆に救急車が遠ざかる側では、次の音を出すまでに救急車自身が先へ移動しているため、後ろへ伝わる音波の間隔は広くなります。

そのため周波数が低くなります。つまり、音源が観測者へ近づく場合には観測される周波数が高くなり、遠ざかる場合には低くなるのです。

サイレンそのものが高い音を出しているわけではない

ここは少し誤解しやすいところです。

ドップラー効果だけを考えるなら、救急車に乗ってサイレンと一緒に移動している人には、サイレンの基本的な周波数は変わりません。

変わっているのは、道路脇にいる私たちのところへ波が届く間隔です。

つまり、

サイレンの発音 → 同じ

外で聞く周波数 → 救急車の動きによって変化

ということです。

実際の緊急車両のサイレンにはもともと音程が上下するパターンがありますが、車両が動けば、その音全体にさらにドップラー効果による周波数の変化が加わります。

通り過ぎた瞬間に音が変わるように感じるのはなぜ?

道路脇で救急車を見ていると、

高い音 → 通過 → 低い音

と、かなりはっきり変化したように聞こえることがあります。

救急車が近づいている間は、私たちとの距離を縮める方向に動いています。

ところが目の前を通過すると、今度は距離を広げる方向へ変わります。

そのため、近づくことで生じていた「高い側へのずれ」から、遠ざかることで生じる「低い側へのずれ」へ短い時間で移ります。

厳密には、道路脇を通過する車の場合、周波数が数学的に一瞬で変わるわけではありません。私たちに対する速度の成分が通過前後で連続的に変化するため、周波数も連続的に変わります。

ただ、最接近する前後では変化が大きいため、耳には「通り過ぎた瞬間に下がった」ように感じやすいのです。

ドップラー効果は音だけではない

ドップラー効果は、救急車のサイレンだけに起こる現象ではありません。

NASAは宇宙探査機との通信でもドップラー効果を利用しています。

探査機から送られてくる電波の周波数が、送信された周波数からどの程度ずれているかを調べれば、探査機が地球へ近づいているのか、遠ざかっているのか、さらにその運動を詳しく調べる手掛かりになります。

天文学でも似た考え方が使われます。

遠ざかる天体から届く光は低い周波数側、つまり赤い側へずれる「赤方偏移」を示し、近づく場合は高い周波数側へずれます。

ただし、光には音のような「空気」という媒質が必要ないため、高速で動く天体などを扱うときの計算式は、救急車の音に使う古典的なドップラー効果の式とは異なります。

身近な救急車のサイレンと、遠い宇宙の天体観測は、実は「届く波の周波数の変化を読む」という同じ考え方でつながっています。

1問クイズ

救急車があなたから遠ざかっているとき、サイレンはドップラー効果によってどう聞こえるでしょうか?

A. 元より高く聞こえる
B. 元より低く聞こえる
C. 必ず同じ高さに聞こえる
D. 音の速さそのものが0になる

正解:B. 元より低く聞こえる

救急車が遠ざかると、こちらへ届く音波の間隔が広くなります。そのため受け取る周波数が低下し、低い音として聞こえます。

今回確認した資料

OpenStax『University Physics Volume 1 — The Doppler Effect』
音源と観測者の運動、波長と周波数の関係、ドップラー効果の式を確認しました。
OpenStaxの解説を見る

OpenStax『Physics — Doppler Effect and Sonic Booms』
救急車を例にした説明と、移動する音源についての式を確認しました。
OpenStaxの救急車の例を見る

NASA / JPL『Exploring the Doppler Effect With NASA』
救急車や列車の音を身近な例として扱う説明と、宇宙探査で電波のドップラーシフトを利用する例を確認しました。
NASA JPLの解説を見る