飛行機の窓から翼を見ていると、離陸前や着陸前に、翼の後ろ側が大きく動いて「板」のような部分が出てくることがあります。

これは主にフラップと呼ばれる装置です。

巡航中は翼の中に近い位置へ収納されているのに、なぜ離着陸のときだけ出てくるのでしょうか。

シンプルな答え

離着陸では飛行機の速度が低くなるため、フラップを出して翼の形や面積を変え、低速でも十分な揚力を得やすくするためです。

一方で、フラップを出すと空気抵抗も増えます。

そのため、高速で効率よく飛びたい巡航中には収納し、低速で大きな揚力が必要な離着陸時に使います。

FAAはフラップを代表的な「高揚力装置」と説明しており、展開すると揚力と誘導抗力の両方が増えるとしています。

速度が遅くなると、なぜフラップが必要?

翼が生み出す揚力は、飛行速度が速いほど大きくしやすくなります。

巡航中の旅客機は高速で飛んでいるため、比較的すっきりした翼の形でも十分な揚力を得られます。

しかし、離陸や着陸では速度を大きく落とさなければなりません。

特に着陸では、巡航速度のまま滑走路へ降りるわけにはいきません。

そこで、

速度が下がる
↓
そのままでは揚力も小さくなりやすい
↓
翼の形を変えて揚力を増やす

という役割をフラップが担います。

NASAも、離着陸では速度が低いため、翼の前後に動く装置を使って翼の面積や形を変え、必要な揚力を確保すると説明しています。

フラップを出すと翼はどう変わる?

フラップは主に翼の後ろ側、つまり後縁にあります。

タイプによって動き方は異なりますが、代表的なものでは、

  • 下向きに動く
  • 後ろへせり出す
  • 後ろへ移動しながら下向きになる

といった動きをします。

これによって、翼の反りであるキャンバーが大きくなります。

さらにFowler flap(ファウラーフラップ)のように後方へ移動するタイプでは、翼の実効的な面積も増えます。

FAAによると、ファウラーフラップは展開の初期では翼面積とキャンバーを増やすことで、比較的小さな抗力増加で大きな揚力増加を得られます。さらに展開すると、揚力だけでなく抗力も大きくなっていきます。

つまりフラップは、単に「板を下へ曲げる装置」ではありません。

飛行状況に応じて翼そのものの空力特性を変える装置です。

なぜ離陸と着陸では出し方が違う?

ここがフラップの面白いところです。

離陸と着陸では、どちらも低速で大きな揚力が必要ですが、求める条件が少し違います。

離陸では「揚力は欲しい。でも抵抗は増やしすぎたくない」

離陸では、できるだけ短い滑走で浮き上がりたい一方、浮いたあとには加速して上昇しなければなりません。

フラップを大きく出しすぎると揚力は増えますが、抗力も大きくなります。

そのため一般には、機種や条件に応じて適度なフラップ角度を使います。

NASAも、離陸では高い揚力を得ながら抗力を抑えるため、フラップを中程度に展開すると説明しています。

着陸では「揚力に加えて、抵抗も役に立つ」

着陸では、低速でも揚力を保ちながら速度を落とす必要があります。

このときフラップによって増える抗力も利用できます。

大きな抗力が生じれば、エンジン出力や姿勢を調整しながら、速度を抑えて降下しやすくなります。

NASAは、着陸では高い揚力と高い抗力の両方が必要になるため、フラップやスラットを大きく展開すると説明しています。

ただし実際のフラップ角度や操作手順は、機種、重量、滑走路、風などによって異なります。

翼の前から出てくる部分もある

旅客機をよく見ると、後ろ側のフラップだけでなく、翼の前側からも何かが動くことがあります。

代表的なのがスラットです。

NASAによると、

  • 翼の後ろ側:フラップ
  • 翼の前側:スラット

として使われ、両方を展開することで低速時の揚力を増やします。

スラットは翼前縁付近の空気の流れを保ちやすくし、大きな迎角でも流れが翼からはがれにくくする役割があります。

大型旅客機では、フラップとスラットを組み合わせた高揚力装置が使われることが一般的です。FAAも、前縁スラットなどと後縁フラップを組み合わせることで最大揚力係数を大きく高められると説明しています。

では、なぜ巡航中は全部しまう?

フラップには「揚力を増やせる」という利点があります。

それなら、ずっと出しておけばよさそうにも思えます。

しかし、そうすると空気抵抗が増えてしまいます。

巡航中は高速で飛んでいるため、離着陸時ほど高揚力装置の助けは必要ありません。

むしろ抵抗を小さくして、少ない燃料で効率よく飛ぶことが重要になります。

そのため、

離着陸:翼の形を変えて低速性能を重視
巡航:フラップを収納して抵抗の少ない翼に戻す

という使い分けをしています。

NASAでは現在も、離着陸時には十分な揚力を確保しつつ、巡航時の抵抗や燃料消費を減らす高揚力装置の研究が続けられています。

着陸した直後に翼の上から立ち上がる板とは別物

着陸すると、今度は翼の上面から何枚もの板が一斉に立ち上がることがあります。

これは主にスポイラーです。

フラップとは役割が違います。

フラップは低速でも揚力を増やすために使われますが、着陸後のスポイラーは逆に翼の上の空気の流れを乱し、揚力を減らす働きをします。

NASAも、着陸後にはスポイラーを展開して揚力を減らし、同時に抗力を増やして減速を助けると説明しています。

「翼から板が出る」という見た目は似ていますが、フラップとスポイラーでは目的がほぼ反対なのです。

1問クイズ

離着陸時にフラップを展開する主な理由はどれでしょう?

A. エンジンの音を小さくするため
B. 翼を短くするため
C. 低い速度でも十分な揚力を得やすくするため
D. 翼端渦を完全になくすため

正解:C

フラップは翼の形や、タイプによっては実効的な面積も変えることで、低速時の揚力を増やします。

ただし同時に抗力も増えるため、巡航中には通常収納します。

関連する疑問

今回確認した資料

FAA「Pilot’s Handbook of Aeronautical Knowledge」
フラップを代表的な高揚力装置とし、展開によって揚力と抗力が増えること、各種フラップの特徴を確認しました。

NASA Glenn Research Center「Animated Flaps and Slats」
離着陸時の低速で必要な揚力を得るため、フラップやスラットで翼の形・面積を変える仕組みを確認しました。

NASA「High-Lift Aerodynamic Wing Design Tested At NASA Langley Tunnel」
現代の輸送機が低速の離着陸で高揚力装置を必要とすることと、巡航効率との両立を目指す研究を確認しました。