飛行機を見ていると、翼の先が上向きに折れ曲がっている機体があります。

これは単なるデザインではありません。あの部分は「ウイングレット」と呼ばれ、飛行機が空を飛ぶときに生じる空気抵抗を減らすための工夫です。

シンプルな答え

翼の先を上向きにする主な目的は、翼端にできる強い渦を弱め、「誘導抗力」と呼ばれる空気抵抗を減らすことです。

抵抗が減れば、同じ距離を飛ぶのに必要な燃料を減らしたり、航続距離を延ばしたりできます。

NASAも、現代の旅客機で使われるウイングレットは翼端渦の強さを抑え、誘導抗力を減らすためのものだと説明しています。

そもそも翼の先にはなぜ渦ができる?

飛行機の翼が揚力を生み出しているとき、翼の上側と下側では空気の圧力に差があります。

大まかに見ると、翼の下側のほうが圧力が高く、上側のほうが低くなっています。

翼の途中では翼そのものが空気を隔てていますが、翼の端まで来ると壁がありません。

そこで翼の下側にある空気の一部が、翼端を回り込むように上側へ流れます。

その結果、翼の後ろには回転する空気の流れ、つまり翼端渦ができます。NASA Glenn Research Centerも、翼端付近では上下の圧力差によって空気が回り込み、後方へ渦が形成されると説明しています。

イメージすると、

翼の下:比較的高い圧力
  ↓ 翼端を回り込む
翼の上:比較的低い圧力

という空気の動きが、飛行機の後ろへ続く渦になります。

渦ができると、なぜ燃費が悪くなる?

翼端渦にはエネルギーが使われます。

さらに、この渦によって翼の周囲の空気の流れが変化すると、本来は上向きに働いてほしい空気力の一部が後ろ向きの成分を持つようになります。

これが誘導抗力(induced drag)です。

名前の通り、揚力を発生させることに伴って生じる抵抗です。NASAは、翼端渦に失われるエネルギーと誘導抗力が関係していると説明しています。

つまり、

揚力を作る
↓
翼端に渦ができる
↓
誘導抗力が生じる
↓
その分だけ前へ進むために余分な推力が必要になる

という関係です。

そこで登場するのがウイングレットです。

翼の先を曲げると何が変わる?

ウイングレットは、翼端付近の空気の流れをうまく変えるよう設計されています。

翼端で起きる空気の回り込みや渦を抑えることで、誘導抗力を小さくします。

単純に「板を上向きに付ければよい」というわけではありません。

NASAも、ウイングレットは翼全体の設計と慎重に組み合わせる必要があり、それが旅客機によってさまざまな形のウイングレットが存在する理由の一つだとしています。

実際の飛行機を見ると、

  • ほぼ垂直に立っているもの
  • なめらかに上へ曲がっているもの
  • 上下に分かれているもの
  • 翼端そのものが長く伸びているもの

など、さまざまな形があります。

「上向きに曲げる」という見た目は似ていても、航空機ごとに翼全体との組み合わせを考えて設計されています。

ウイングレットはNASAの研究から広がった

現在のウイングレットにつながる重要な研究を行った人物が、NASA Langley Research Centerの航空技術者リチャード・ウィットコム(Richard Whitcomb)です。

1970年代、ウィットコムはコンピューター解析や風洞試験を使い、翼端に垂直に近い小さな翼を取り付けることで誘導抗力を減らせないか研究しました。

その後、NASAと米空軍などはKC-135を使って実際の飛行試験を行いました。

NASA Armstrong Flight Research Centerによると、1979年から行われた48回の飛行試験では、ウイングレットによって翼端付近の抵抗が減り、燃料効率が6〜7%改善したと報告されています。

効果は機体、翼の形、ウイングレットの設計、飛行条件などによって変わります。

では、翼をもっと長くすればいいのでは?

実は、翼を長くすることも誘導抗力を減らす方法の一つです。

NASAの解説でも、細長くアスペクト比の大きな翼ほど誘導抗力を小さくできることが示されています。

ただし、翼を単純に長くすると別の問題が出てきます。

翼そのものが重くなったり、構造を強化する必要が生じたり、空港の駐機場や誘導路で使える幅に影響したりします。

NASAのウイングレット研究では、翼を単純に延長する方法と比べ、翼幅を大きく増やさずに空力的な効果を得られることも利点として検討されてきました。

つまりウイングレットは、

「できるだけ抵抗を減らしたい」

という空力上の要求と、

「翼をむやみに大きく・重くしたくない」

という構造や運用上の要求の間で生まれた工夫の一つと考えることができます。

翼端が上向きなら、すべて「同じウイングレット」ではない

最近の飛行機では、昔ながらの垂直に近いウイングレットだけでなく、翼端がなめらかに伸びた形状も増えています。

目的は共通していても、最適な形は機体によって異なります。

翼全体の形、重量、構造、巡航速度などを考慮しながら、翼端付近の空気の流れを少しでも効率よく利用するための設計です。

1問クイズ

飛行機のウイングレットの主な目的はどれでしょう?

A. 翼の先端を地面から見やすくするため
B. 翼端渦を抑え、誘導抗力を減らすため
C. 翼の中の燃料を翼端へ集めるため
D. 乱気流そのものを発生しなくするため

正解:B

翼端では上下の圧力差によって渦が発生します。ウイングレットはその翼端付近の流れを整え、誘導抗力を減らすよう設計されています。

関連する疑問

今回確認した資料

NASA Glenn Research Center「Winglets」

NASA Glenn Research Center「Induced Drag Coefficient」

NASA Armstrong Flight Research Center「On the Winglets of Innovation with NASA Armstrong」

NASA Spinoff「Winglets Save Billions of Dollars in Fuel Costs」