窓から翼を見ていると、乱気流に入ったときなどに翼の先が大きく上下していることがあります。

「こんなに曲がって大丈夫なの?壊れてないの?」と思うかもしれません。

シンプルな答え

飛行機の翼がしなるのは、飛行中に受ける力によって翼が弾性的に変形しているためです。

しなること自体は異常ではありません。翼は完全に動かない板として作られているのではなく、飛行中にどの程度変形するかまで考慮して設計・試験されています。

NASAの航空研究資料でも、航空機が「柔軟であること」と「弱いこと」は同じではないと説明されています。

なぜ飛んでいると翼は上に曲がる?

地上に止まっている飛行機では、翼そのものや翼内の燃料、エンジンなどの重さによって、翼には下向きの力がかかっています。

ところが飛行中は、翼が生み出す揚力が上向きに作用します。

そのため、大まかに見ると、以下のような変化が起こります。

さらに、旋回したとき、上昇したとき、突風を受けたときなどには翼にかかる荷重も変化します。

NASAが1950年代に行っていた研究でも、翼の曲げやねじれが飛行中の荷重によって変化することが詳しく調べられていました。

「曲がる翼」と「曲がらない翼」なら、曲がらないほうが丈夫?

実は、必ずしもそうではありません。

材料に力を加えたとき、形が少し変わり、力を取り除くと元へ戻る変形を弾性変形といいます。

たとえば定規を軽く曲げると、手を離せば元へ戻ります。飛行機の翼でも、これとは規模も構造もまったく違いますが、荷重によって弾性的な変形が生じます。

重要なのは、

「まったく曲がらないこと」

ではなく、

想定される荷重の範囲で、安全性を損なう変形や破壊が起こらないこと

です。

米国の大型航空機の耐空性基準である14 CFR §25.305でも、設計上の限界荷重まで有害な永久変形を起こさず、変形によって安全な運航が妨げられないことが求められています。

実は「しなり」は空気の流れにも影響する

翼が曲がれば、単に見た目の形が変わるだけではありません。

翼の角度やねじれ方が変化すると、翼の各部分で生まれる揚力も変わります。

このように、

空気から受ける力
→ 翼が変形する
→ 翼の形が変わる
→ 空気から受ける力も変わる

という相互作用を扱う分野が空力弾性(aeroelasticity)です。

NASAの古い研究資料でも、翼の曲げによって翼にかかる揚力の分布が変わることが説明されています。

現在でもこれは重要な研究分野です。

NASAとBoeingは、燃費向上につながる長く細い翼について、翼の大きな動きや突風による荷重、空力弾性をどのように制御するかを研究しています。長く細い翼は効率を高められる一方、柔軟性が高まるため、その動きを正しく予測し制御する必要があります。

では、どこまでしなっても大丈夫なの?

ここは機種ごとに異なるため、「翼端が○メートル動くのは安全」と一律には言えません。

翼の長さ、材料、構造、重量、飛行速度などが異なるからです。

そのため航空機では、実際に想定される荷重だけでなく、構造の変形が飛行特性へ与える影響も含めて解析や試験が行われます。

特に注意しなければならない現象の一つがフラッターです。

これは空気の力と翼などの構造の振動が組み合わさり、振動が急激に大きくなる可能性がある現象です。

大型航空機の耐空性基準14 CFR §25.629では、フラッターのほか、構造変形によって安定性や操縦性が不当に失われないことを、解析、風洞試験、振動試験、飛行試験などによって確認することが求められています。

つまり、私たちが窓から見ている翼の「しなり」は、設計者にとって想定外の動きではありません。

どのように曲がり、ねじれ、それによって空気の力がどう変わるのかまで含めて航空機は設計されています。

「しなるほど安全」という意味でもない

ここは少し注意が必要です。

「翼がしなるのは正常」という説明から、

「柔らかい翼ほど安全」
「しなればしなるほど力を逃がせる」

と考えるのも正確ではありません。

翼には強度だけでなく、剛性、重量、空力特性、振動特性などさまざまな条件があります。

柔軟すぎれば空力特性が大きく変化したり、フラッターなどの問題につながったりする可能性があります。

そのため、翼は単に「柔らかく作る」のではなく、必要な強度と剛性を持たせながら、実際に生じる変形を予測し、安全な範囲に収めるよう設計されているのです。

1問クイズ

飛行中に飛行機の翼がしなる主な理由として、最も適切なのはどれでしょう?

A. 翼の取り付け部分が少し緩んでいるため
B. 飛行中の荷重によって翼が弾性的に変形するため
C. 高空では金属が溶けて柔らかくなるため
D. 燃料を翼端へ移動させるため

正解:B

翼には揚力や突風などによってさまざまな荷重がかかります。その結果として生じる弾性的な変形も含め、航空機は強度や空力弾性を考慮して設計・試験されています。

関連する疑問

今回確認した資料

NASA / NACA「Airplane Flexibility」
1950年代から、翼の曲げ・ねじれと飛行特性の関係が研究されていたこと、柔軟性と強度は別の概念であることを確認しました。 NASA「Airplane Flexibility」

NASA「NASA, Boeing Test How to Improve Performance of Longer, Narrower Aircraft Wings」
長く細い高効率翼について、柔軟性、突風荷重、空力弾性、フラッターなどを現在も研究していることを確認しました。 NASAの柔軟翼研究

14 CFR §25.305 Strength and deformation
大型航空機の構造について、限界荷重時の変形や安全性に関する要求を確認しました。

14 CFR §25.629 Aeroelastic stability requirements
フラッターなどを含む空力弾性安定性について、解析・試験等による確認が求められていることを確認しました。