音は空気中と水中、どちらを速く進む?
水の中に潜っていると、外の音は聞こえ方がかなり違います。
なんとなく「水の中では音も進みにくそう」と感じますが、音の速さそのものはどうなのでしょうか。
シンプルな答え
音は、一般に空気中より水中のほうが速く進みます。
NOAAによる代表的な値では、
空気中:約340 m/s
海水中:約1,500 m/s
です。
海水中では、空気中のおよそ4倍以上の速さで音が進みます。
では、なぜでしょうか。
「水は空気より分子が密集しているから」と説明されることがありますが、それだけでは十分ではありません。
ポイントは、密度と「圧縮されにくさ」の両方です。
音は何が移動している?
音は、空気そのものや水そのものが音源から耳まで移動してくる現象ではありません。
物質の中にできた振動が、隣の部分へ、さらにその隣へと伝わっていく波です。
空気中なら空気の圧縮と膨張が伝わり、水中なら水の圧力変化が伝わります。
つまり音が進むためには、
振動を次へ伝えるための物質=媒質
が必要です。
そのため、ほとんど物質のない真空では音は伝わりません。

「水のほうが密だから速い」ではない
ここは少し意外なところです。
「水の分子は空気より近くにあるから、すぐ隣へ振動を渡せる。だから速い」
と説明されることがあります。
直感的には分かりやすいのですが、物理的にはそれだけではありません。
流体中の音速は、OpenStaxでは次の関係で表されています。
v = √(B / ρ)
ここで、
v:音の速さ
B:体積弾性率(どれだけ圧縮されにくいか)
ρ:密度
です。
この式を見ると、密度が高くなること自体は、むしろ音速を遅くする方向に働きます。
一方で、圧縮されにくいほど音は速く伝わります。
そして水は、空気と比べるとはるかに圧縮されにくい物質です。
この「圧縮されにくさ」の効果が大きいため、結果として水中の音速は空気中より速くなります。OpenStaxも、液体や固体は気体より圧縮されにくいため、一般に音速が大きくなると説明しています。
イメージするなら「やわらかいバネ」と「硬いバネ」
たとえば、物質同士がバネでつながっているようなイメージで考えてみます。
非常にやわらかいバネなら、一か所を押しても変形が大きく、力が隣へ伝わるのに時間がかかります。
反対に、硬いバネで強くつながっていれば、一か所の変化が素早く隣へ伝わります。
空気は非常に圧縮しやすいため、いわば「やわらかいバネ」に近い性質があります。
水はかなり圧縮しにくいため、振動による圧力変化がより速く伝わります。
もちろん実際の水分子がバネでつながっているわけではありませんが、「弾性が大きいほど波が速い」という考え方をイメージするには役立ちます。
実際にはどれくらい違う?
NOAAは、代表的な値として、
空気:約340 m/s
海水:約1,500 m/s
を示しています。
OpenStaxの例では、条件によって、
空気:331 m/s(0℃)
淡水:1,480 m/s(20℃)
海水:1,540 m/s(20℃)
とされています。
数字が資料によって少し違うのは、音速が温度などの条件によって変わるからです。
したがって「水中では必ず1,500 m/s」と覚えるより、
水中では代表的に約1,500 m/sで、空気中の約340 m/sよりかなり速い
と理解するのがよいでしょう。
水中の音速は一定ではない
海の中でも、音速はどこでも同じではありません。
特に関係するのが、
温度、圧力、塩分
です。
NOAAによると、海水中の音の伝わり方は水温や圧力に大きく左右されます。海では深さによって温度と圧力が変化するため、音速も深さによって変わります。
2026年の米海軍の音響資料でも、海水中の音速は温度上昇で増加し、圧力や塩分の上昇でも変化すると説明されています。
このため海中では、音が単純な一直線ではなく、音速の違いによって曲がりながら進むことがあります。

海では音が遠くまで届くことがある
水中では音が速いだけでなく、条件によっては非常に遠くまで届きます。
海の中には、音速が深さによって変わることで音が上下に屈折し、一定の深さ付近に閉じ込められるように進む場所があります。
NOAAはこれをサウンドチャネル(sound channel)として説明しており、この仕組みによって低周波の音などが非常に長い距離を伝わることがあります。
クジラの声を遠く離れた場所で捉えられることがあるのも、海という媒質のこうした性質と関係しています。
「速く伝わる」と「大きく聞こえる」は別の話
以前の記事で扱ったデシベルと同様、ここでも性質を分けて考える必要があります。
音が速く伝わることと、音が大きく聞こえることは同じではありません。
音速は、媒質の弾性や密度などで決まります。
一方、聞こえる音の大きさは、音波の振幅や音源からの距離、媒質との境界、人間の耳の特性などにも左右されます。
さらに、空気中と水中ではデシベルを表すときの基準圧力も異なるため、空気中の「100 dB」と水中の「100 dB」を、そのまま同じ音の大きさとして比較することもできません。NOAAも、水中音と空気中音ではデシベルの基準が異なることを説明しています。
1問クイズ
音が水中で空気中より速く伝わる主な理由として、最も適切なのはどれでしょうか。
A. 水には空気より音がたくさん含まれているから
B. 水は空気より軽いから
C. 水は空気よりかなり圧縮されにくいから
D. 水中では音の周波数が必ず高くなるから
正解はCです。
音速は媒質の密度だけでなく弾性にも左右されます。水は空気より密度が高い一方、それ以上に圧縮されにくいため、結果として音が速く伝わります。
関連する疑問
以前の記事と合わせると、音の性質を「高さ・大きさ・速さ」に分けて理解できます。
「救急車が通り過ぎると、なぜサイレンの高さが変わる?」では、音の周波数と高さを扱いました。
「80デシベルは40デシベルの2倍?」では、音の強度とデシベルを扱いました。
今回の記事では、音が伝わる速さと媒質を扱っています。
同じ「音」でも、それぞれ別の性質です。
今回確認した資料
NOAA Ocean Service「How far does sound travel in the ocean?」
海水中約1,500 m/s、空気中約340 m/sという代表値と、海中での温度・圧力による音速変化、サウンドチャネルについて確認しました。
OpenStax「Speed of Sound」
流体中の音速が v = √(B/ρ) で表され、弾性と密度の両方に依存すること、淡水・海水・空気などの音速例を確認しました。
NOAA「Basics of Underwater Sound」
海水中では音が空気中より4倍以上速く進むこと、水中音と空気中音ではデシベルの基準が異なることを確認しました。
U.S. Navy 2026 Acoustic Technical Report
海水中の音速が温度・圧力・塩分によって変化することを確認しました。