パイナップル入りのゼリーを作ろうとして、生の果肉をそのまま入れたら、いつまで冷やしても固まらなかった――。

そんなことがあります。

一方、缶詰のパイナップルなら普通にゼリーを作れることがあります。

シンプルな答え

違いは、パイナップルに含まれる「酵素」です。

生のパイナップルには、ブロメラインなどのたんぱく質分解酵素が含まれています。

ゼラチンもたんぱく質なので、この酵素によって分子が細かく切られると、ゼリーを支える網目構造を作りにくくなります。

そのため、生のパイナップルをゼラチンのゼリーに入れると、固まりにくくなることがあります。

日本家政学会誌の研究でも、生パイナップル汁によってゼラチンの粘度が低下し、ゼラチン分子が低分子化して、条件によってはゲル形成能が失われることが確認されています。

図で見ると

普通のゼラチン

長いゼラチン分子
↓
冷えると分子同士がつながる
↓
網目構造ができる
↓
その中に水を抱え込む
↓
ゼリーとして固まる

生パイナップルを入れる

たんぱく質分解酵素が働く
↓
ゼラチン分子が細かく切られる
↓
十分な網目を作れない
↓
水を支えにくくなる
↓
固まりにくい

つまり、生パイナップルが「水っぽいから」固まらないのではなく、ゼラチンそのものが酵素で分解されてしまうのが重要なポイントです。

ゼラチンは、なぜ網目になると固まる?

温かいゼラチン液では、ゼラチンの分子は水の中を比較的自由に動いています。

温度を下げると、分子同士の一部が結びつき、三次元的なネットワークを作ります。

その網目の中に大量の水が閉じ込められることで、液体だったものが、ぷるぷるしたゲルになります。

ですから、ゼラチンの長い分子が十分に残っていることが重要です。

パイナップルの酵素は何をしている?

生パイナップルに含まれるプロテアーゼは、たんぱく質を構成する鎖を途中で切る働きを持っています。

日本家政学会誌の実験では、生パイナップル汁を加えるとゼラチン分子の低分子化が進み、その変化とゼラチン液の粘度低下が対応していました。研究では、パイナップルの酵素がゼラチン分子のペプチド結合を切断すると考えられています。

長いひもを使って網を作ろうとしているところに、はさみでひもを細かく切ってしまうようなものです。

短くなりすぎると、十分な網目を作れません。

では、缶詰のパイナップルならなぜ固まりやすい?

大きな違いは加熱処理です。

酵素もたんぱく質でできているため、加熱すると立体構造が変わり、働きが弱くなったり失われたりします。

生や冷凍のパイナップルに含まれるブロメラインはゼラチンを壊す一方、缶詰では加熱工程によって酵素が働かなくなるため、ゼラチン料理に利用できるようになるのです。

つまり、

生パイナップル
→ 酵素が働いている
→ ゼラチンを分解しやすい

加熱処理されたパイナップル
→ 酵素の働きが弱くなる
→ ゼラチンを分解しにくい

という違いです。

何℃まで加熱すれば大丈夫?

ここは「○℃になれば必ず瞬時に失活する」と決まっているわけではありません。

ブロメラインの熱への強さは、温度だけでなく、加熱する時間やpHなどによっても変わります。

University of Wisconsin Food Research Instituteがまとめた研究では、80℃で一定時間加熱すると十分な失活が期待できる一方、より低い温度では活性が一部残る場合があり、その程度は条件によって変化するとされています。

家庭では細かな温度条件を計算するより、ゼラチンでのゼリーを確実に作りたいなら加熱処理済みの缶詰を使うと考えるのがよいでしょう。

冷凍パイナップルなら大丈夫?

冷凍しただけでは、加熱した場合と同じとは限りません。

生だけでなく冷凍のパイナップルについても、ゼラチンを壊す酵素が問題になります。

つまり、

冷凍=酵素を完全に壊す

とは考えないほうがよいでしょう。

また、冷凍で一時的に反応が遅くなっても、解凍すれば再び酵素が働ける場合があります。

パイナップルを入れる量でも変わる

一方でパイナップルが一切れでも入れば絶対に固まらない、というものでもありません。

日本家政学会誌の実験では、パイナップル汁の量が増えるほどゼラチンへの影響が大きくなり、実験条件では一定量以上の添加でゲル形成能が失われました。

実際の料理では、ゼラチン濃度、パイナップルの量、酵素活性、反応時間、温度などが組み合わさって結果が変わります。

そのため、少量なら「少しやわらかくなる」程度で済む場合もあれば、ほとんど固まらなくなる場合もあります。

寒天のゼリーでも同じ?

ここは区別が必要です。

今回説明しているのは、ゼラチンを使ったゼリーの話です。

ゼラチンはたんぱく質なので、パイナップルのたんぱく質分解酵素の影響を受けます。

一方、寒天やアガーはゼラチンとは主成分が異なるため、ブロメラインがたんぱく質を切るので固まらない、という同じ理論はあてはまりません。

ヨーグルトとは逆のことが起きている

以前の記事では、牛乳がヨーグルトになると固まる理由を紹介しました。

ヨーグルトでは、乳酸によってカゼインというたんぱく質が集まり、網目構造を作ることで固まります。

牛乳はさらさらなのに、ヨーグルトになると固まるのはなぜ? 牛乳はコップからさらさら注げるのに、ヨーグルトになるとスプーンですくえるほど固くなります。 冷やして凍らせているわけでも、水分を...

今回のゼラチンでは反対に、網目を作るはずのたんぱく質が酵素によって細かく切られるため、固まりにくくなるわけです。

食品の「固まる・固まらない」は、水分の量だけではなく、たんぱく質がどのような構造を作るかによっても大きく変わるのです。

1問クイズ

生のパイナップルをゼラチンのゼリーに入れると、固まりにくくなる主な理由はどれでしょう?

A. 果汁がゼラチンの水分をすべて蒸発させるから
B. 酵素がゼラチンのたんぱく質を分解するから
C. パイナップルの糖がすべて結晶化するから
D. 果肉が冷蔵庫の温度を上げるから

正解:B

生パイナップルのブロメラインなどのたんぱく質分解酵素がゼラチン分子を切ると、ゼラチンが網目状のゲルを作りにくくなります。

今回確認した資料

日本家政学会誌
「ゼラチンのゲル形成に及ぼす生パイナップル汁の影響」

University of Illinois Extension
「There’s Always Room For a Gelatin Salad」

University of Wisconsin Food Research Institute
「Thermal Inactivation of Bromelain」