チーズは、種類によって加熱したときの「伸びる・流れる・形が残る」が違うのはなぜ?
ピザのチーズは長く糸を引くのに、加熱してもそれほど伸びず、形が残りやすいチーズもあります。
どちらも牛乳などから作られたチーズなのに、なぜこれほど違うのでしょうか。
シンプルな答え
チーズの溶け方や伸び方は、脂肪の量だけではなく、カゼインという乳たんぱく質が作るネットワークの状態に大きく左右されます。
水分、カルシウム、pH、塩分、熟成によるたんぱく質の分解などが違うと、このネットワークの強さや柔軟さも変わります。
そのため、加熱したときに「よく伸びる」「横へ流れる」「やわらかくなるが形は残る」といった違いが生まれます。つまり、チーズの食感・溶け方・伸び方が主にカゼイン分子間の相互作用に左右されることが主因なのです。
図で見ると

冷たいチーズ
カゼインのネットワークの中に
水分と脂肪が抱え込まれている
↓
加熱する
↓
脂肪がやわらかくなる
+
たんぱく質のネットワークも動きやすくなる
↓
ここでチーズごとの差が出る
ネットワークが適度に柔軟
→ 引っ張ると伸びやすい
ネットワークがゆるみやすい
→ 横へ流れやすい
ネットワークの結びつきが強い
→ やわらかくなっても形が残りやすい
↓
この違いを左右するのが
水分・カルシウム・pH・塩分・熟成など
つまり、「脂肪が溶けるからチーズが溶ける」というだけではありません。
チーズは「たんぱく質の網目」でできている
チーズの内部には、カゼインを中心としたたんぱく質のネットワークがあります。
その網目の中に脂肪や水分などが存在しています。
加熱すると脂肪はやわらかくなりますが、それだけでチーズ全体が自由に流れるわけではありません。
チーズの形を支えているカゼイン同士の結びつきが、熱を加えたときにどの程度ゆるむのかが重要です。
このようにチーズの硬さ、溶融性、伸展性などは、カゼイン同士の相互作用を中心に考えることで説明できます。また、その状態はpH、カルシウム塩、熟成などによって変わります。
カルシウムが多いか少ないかでも変わる
カゼイン同士の結びつきにはカルシウムが関係しています。
Utah State Universityのモッツァレラを使った研究では、カルシウム量の異なるチーズを比較したところ、カルシウムが少ない試料のほうが軟らかく、加熱時にはより遠くまで流れたことが報告されています。
つまり、
カルシウムを介した結びつきが強い
→ たんぱく質のネットワークが強くなりやすい
結びつきが弱まる
→ ネットワークが動きやすくなり、加熱時に流れやすくなる
という方向で考えることができます。
ただし、カルシウムが少なければ必ずよく溶けるというわけではありません。
pHも重要
チーズ作りでは、乳酸菌などによって酸が作られ、pHが変化します。
pHが変わると、カゼインとカルシウムの関係も変わり、たんぱく質同士の結びつきにも影響します。
実際、モッツァレラを使った研究でも、pHとカルシウム濃度の組み合わせによって、加熱後の流れやすさや伸びやすさが変化しています。
しかしここで注意したいのは、
pHと溶けやすさに単純な相関関係があるわけではないということです。
カゼインが強く集まりやすいpH領域もあるため、溶けやすさには適切なバランスがあるのです。
水分が違えば、同じネットワークでも動き方が変わる
チーズにはかなり水分が多いものから、水分を減らした硬いものまであります。
水分は、たんぱく質同士の間に存在して構造の動きやすさに影響します。
そのため一般に、水分の状態はチーズの硬さや加熱時の流動性を考えるうえで重要な要素です。
ただし、
水分が多い=よく伸びる
というわけでもありません。
伸びるためには、単に柔らかいだけではなく、たんぱく質のネットワークが切れずに引き延ばされる性質も必要だからです。
「溶ける」と「伸びる」は同じではない
「よく溶けるチーズ」と「よく伸びるチーズ」は、必ずしも同じ意味ではありません。
加熱したときに横へ広がる性質は「流れやすさ」に近く、一方、引っ張ったときに長く糸を引くには、ある程度まとまりを保ったまま変形する必要があります。
つまり、
よく溶ける=よく伸びる とは限らない
のです。
モッツァレラについても、研究では「melt」と「stretch」を別々の性質として測定しています。
モッツァレラは、なぜピザで伸びやすい?
モッツァレラでは、製造工程の中でpHやカルシウムの状態を調整しながら、カードと呼ばれる固まりを加熱して練り伸ばします。
その結果、加熱したときにたんぱく質の構造が変形しやすく、しかも完全には崩れない状態になります。
そのため、ピザを持ち上げたときに、溶けたチーズが長く伸びる独特の性質が生まれます。
ただし、同じモッツァレラでも製法、カルシウム量、水分、熟成期間などが違えば、伸び方や流れ方は変わります。モッツァレラの物性が保存期間によって変わり、伸びと溶け方も変化することも研究されています。
熟成すると溶け方まで変わる
チーズは作った直後からずっと同じ構造ではありません。
熟成中には酵素の働きによってカゼインが少しずつ分解されます。
すると、それまでチーズの形を支えていたネットワークが徐々に変化します。
Journal of Dairy Scienceのレビューでは、熟成中のたんぱく質分解がチーズの構造や物性を変える重要な要因の一つとされています。
つまり、同じ種類のチーズでも、
作りたて
と
熟成が進んだ状態
では、加熱したときの反応が変わることがあります。

ヨーグルトと同じカゼインなのに、ずいぶん違う
以前の記事では、牛乳がヨーグルトになると固まる理由を紹介しました。
ヨーグルトでは、乳酸によってpHが下がり、カゼインが集まって網目状のゲルを作ります。
チーズでもカゼインは中心的な役割を持ちますが、チーズではさらに水分を減らしたり、凝乳酵素を使ったり、塩を加えたり、熟成させたりするため、より複雑な構造になります。
その結果、同じ牛乳から作られる食品でも、たんぱく質の状態によって食感は大きく変わるのです。
1問クイズ
チーズの種類によって、加熱したときの「伸びる・流れる」が違う主な理由はどれでしょう?
A. チーズの色の濃さが違うから
B. カゼインのネットワークや水分・カルシウム・pHなどが違うから
C. すべて脂肪の量だけで決まるから
D. 表面の形だけで決まるから
正解:B
チーズの加熱時の性質は、カゼインのネットワークを中心に、水分、カルシウム、pH、熟成など複数の要因で変わります。
その違いが、チーズごとの伸び方や流れ方の差になります。
今回確認した資料
Utah State University / Journal of Dairy Science
「Influence of pH, Calcium, and Moisture on Physical Properties of Nonfat Mozzarella Cheese」
Utah State University / Journal of Dairy Science
「Influence of Calcium, pH and Moisture on Protein Matrix Structure and Functionality in Direct Acidified Nonfat Mozzarella Cheese」
Lucey JA, Johnson ME, Horne DS.
「Perspectives on the Basis of the Rheology and Texture Properties of Cheese」
Journal of Dairy Science, 2003.